[ 表札を出したくない人の表札 「 YAMAMOTO 」 【 山本 】 本物の真鍮で作ったサインプレート ]
「霧の森と禁じられた本」
山本さんは、ごく普通の会社員。日々のルーチンに追われ、特に何も変わったことのない日常を送っていた。彼の唯一の楽しみは、仕事終わりに近くの古書店へ寄ることだった。その店には、古びた本が積み重なり、店主の姿すらほとんど見えない。店の隅には、時代遅れの時計がカチカチと静かに時を刻んでいた。
ある日、山本さんはいつものように本棚を眺めていると、棚の一番奥に他の本とは違う異質な雰囲気の本を見つけた。黒い革の装丁に金色の文字が刻まれたその本には、タイトルもなく、ただ一つの記号が表紙に描かれていた。それは、どこかで見たことがあるような、しかし記憶には残っていない謎の模様だった。
「これは…?」
好奇心に駆られた山本さんは、そっとその本を手に取りページをめくった。ところが、最初のページには一言、「この本を読む者は、決して後戻りできない」と書かれていた。奇妙に思ったが、山本さんは笑って「大げさだな」と、読み進めることにした。
すると、次の瞬間、周りの音が一切消え、時間が止まったかのような感覚に包まれた。そして、気がつけば、山本さんは知らない場所に立っていた。薄暗く霧がかかった森の中、冷たい風が頬を撫でる。彼はすぐに、本を手にしたままその森に引き込まれたことに気づいた。
「どうして…?ここはどこだ?」
困惑する山本さんの前に、一人の老人が現れた。老人はにこりと微笑み、「お前もあの本を読んでしまったのか」と呟いた。山本さんは驚いて「どういうことですか?」と尋ねた。
老人は静かに答えた。「この本は、読む者を『真実』へと導く。それは、お前が知るべきことではないが、既に選ばれた者だ。戻る道はない。ただ、進むしかない。」
その言葉を聞いた瞬間、山本さんは足元からゆっくりと霧に飲み込まれ、視界が一気にぼやけた。次に目を開けたとき、彼は元の古書店に戻っていたが、手にはもう本はなく、店の時計も動いていなかった。
それ以来、山本さんは毎晩、あの霧の森の夢を見続けた。そして、夢の中で老人が言った「真実」とは何かを探し続ける日々が始まったのだった。
彼の心には、二度と手に入れることのないあの本と、不思議な出来事が深く刻まれていた。山本さんの日常は、静かに、しかし確実に変わり始めたのだ。





