表札を出したくない人の表札「伊藤」さん

表札を出したくない人の表札「伊藤」さん

[ 表札を出したくない人の表札 「 ITO 」 【 伊藤 】 本物の真鍮で作ったサインプレート ]

「影越しの囚人」


ある日、伊藤さんはいつものように仕事を終えて家に帰ろうとしていた。夕暮れ時、彼の足元には長く伸びる影があった。けれど、その影はどこか不自然だった。彼が一歩進むたびに、影が先に動くように見えたのだ。

「なんだ、これ……?」

不思議に思いながらも、伊藤さんはそのまま歩き続けた。影は彼の後ろではなく、常に彼の前を進んでいた。街灯の下を通り過ぎるときも、影は伊藤さんに反応せず、まるで独立した存在のように動いていた。

その夜、家に着くと、伊藤さんは鏡の前に立った。ふと、背後の影を確認しようと振り返ったが、そこには影はなかった。胸がざわつき、彼はすぐに鏡の中をじっと見つめた。そこに映っているのは自分自身……のはずだった。しかし、鏡の中の「伊藤さん」はほんのわずかに動きが遅れていた。

「俺……?」

不安が広がり、手を振ってみたが、鏡の中の自分は微妙に違う動きをした。まるで彼の意思とは関係なく動いているようだった。さらに驚くことに、鏡の中の伊藤さんが口を開き、静かに言葉を発した。

「次は、君の番だ。」

その瞬間、伊藤さんの視界が暗転した。気づけば、彼は鏡の中に閉じ込められ、外側の「伊藤さん」がこちらをじっと見つめていた。鏡越しに動かせる体はなく、ただ意識だけが囚われていた。

家の中には、何事もなかったかのように静寂が戻っていた。しかし、そこにはもう本物の伊藤さんはいなかった。