表札を出したくない人の表札「 吉田 」さん

表札を出したくない人の表札「 吉田 」さん

[ 表札を出したくない人の表札 「 YOSHIDA 」 【 吉田 】 本物の真鍮で作ったサインプレート ]

「鏡の向こう側」


吉田さんは、いつも夜になると奇妙な夢を見るようになりました。彼の夢は、現実とは思えないほどに鮮明で、いつも同じ場所から始まるのです。それは、森の中にぽつんと建っている古びた洋館でした。

ある晩、吉田さんは夢の中で洋館の中に足を踏み入れることを決意しました。重い木の扉を開けると、部屋の中には古い家具が埃をかぶったまま並んでおり、まるで時間が止まったかのような静寂が広がっていました。壁には誰かの肖像画がいくつもかかっていましたが、どれも目が消されており、不気味な雰囲気を醸し出しています。

彼がさらに奥へ進むと、一枚の鏡が目に入りました。その鏡は、見たこともないほどの美しい彫刻が施されていましたが、近づくにつれて奇妙なことが起こり始めました。鏡に映る自分の姿が、まるで別の人間のように動き出したのです。驚いて後ずさりしようとした瞬間、鏡の中の「もう一人の吉田」が話しかけてきました。

「お前がここに来るのを待っていた。」

吉田さんは恐怖と好奇心が入り混じり、体が動かなくなりました。鏡の中の彼は、手を伸ばしてこう続けました。「お前の望むものはここにある。しかし、その代わりに、お前は何かを差し出さなければならない。」

吉田さんは、自分が何を望んでいるのかすら分かりませんでした。しかし、鏡の中の自分の目には確信があり、迷いは感じられませんでした。突然、吉田さんの手が自分の意思とは関係なく鏡の方へと動き、鏡に触れると同時に部屋が激しく揺れ始めました。

次の瞬間、吉田さんは目を覚ましました。しかし、いつもと何かが違いました。彼の家の中には、夢の中で見たあの鏡が実際に存在していたのです。どうしてここにあるのか分かりませんが、その鏡は今も吉田さんをじっと見つめているようでした。鏡を避けるように過ごす日々が続く中、彼の心にはいつしか奇妙な欲望が芽生えていました。それは「再びあの鏡の中に入ること」でした。

その欲望に逆らい続ける吉田さん。しかし、鏡に引き込まれるように再び彼は夜ごとその前に立つようになり、ついには鏡に触れてしまいます。彼の姿は一瞬で消え、鏡の中には静寂だけが残りました。誰も吉田さんの姿を二度と見ることはありませんでした。