[ 表札を出したくない人の表札 「 SUZUKI 」 【 鈴木 】 本物の真鍮で作ったサインプレート ]
「影を探す森」
ある日、鈴木さんは駅前の古びた本屋で、奇妙な一冊の本を見つけました。その本は表紙にタイトルもなく、ただ鈍い金色に輝く謎めいたシンボルが描かれているだけでした。鈴木さんは妙な引力に引き寄せられるように、本を手に取り、ページをめくり始めます。
ページの中には、手書きの文字で何かが書かれていました。それは、読んでいる間に文字が次々と変わっていくような、まるで生きているかのような文章でした。そして、ページをめくるたびに、鈴木さんの周りの空間が少しずつ変わり始めたのです。
最初は本屋の音や人々の足音が消え、静寂が訪れました。続いて、薄暗い本屋の床がゆっくりと消え、代わりに深い森の中に立っていることに気づきました。木々は不自然に背が高く、空は紫色に染まっています。鈴木さんは慌てて後ろを振り返りましたが、本屋への道は跡形もなく消え去っていました。
「ここは…どこだ?」
不安に駆られた鈴木さんは、手にしていた本が温かく輝き始めているのに気づきます。本のページは一つだけ開かれ、そこには「帰りたければ、自らの影を探せ」と書かれていました。彼は足元に目をやりましたが、影はどこにも見当たりません。
森をさまよううちに、鈴木さんは不思議な生き物たちと出会います。人間の顔を持った鳥、逆さまに歩く狐、そして言葉を話す花々。彼らはそれぞれ、鈴木さんに助言を与えましたが、どれも曖昧で矛盾しているように思えました。
「影は消えた時にこそ現れる」と狐は言い、花は「影はあなた自身が作るもの」と囁きます。
混乱しながらも、鈴木さんは進み続けました。やがて、森の奥に小さな湖が現れました。その湖面は鏡のように澄んでいて、鈴木さんはその中に自分の姿を映しました。しかし、そこには自分の影が映っていないことに気づきます。
ふとした瞬間、鈴木さんは湖面に映る自分の姿が、自分とは異なる動きをしていることに気づきました。まるで、彼自身の「影」が湖の中に閉じ込められているかのように。
恐る恐る湖に手を伸ばすと、冷たい水の中から鈴木さんの影がゆっくりと浮かび上がり、彼の足元に再び戻ってきました。すると、周りの風景が一気に変わり、鈴木さんは再び本屋の中に立っていました。
手元の本を見ると、すでに何も書かれておらず、ただの白紙の本になっていました。鈴木さんはその本をそっと棚に戻し、店を後にしましたが、心の中には奇妙な体験が深く刻まれていました。
それ以来、鈴木さんは時々、自分の影が自分よりも少し遅れて動いているのに気づくようになったのです。





